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動画で考える人流観光学講義(開志) 2023年11月13日 観光資源➂

公開日: : 最終更新日:2023/11/19 動画で考える人流観光学

◎観光資源として活用される伝統(昨年のテスト出題)、歴史(認識)

伝統という言葉

美術評論家の北澤憲昭は、字句「伝統」が何か誇りのようなものを含意する熟語になったのは明治以降とし、一般的な流布は昭和初期以降とする。旧日本陸軍『歩兵操典』(1909年)の「赫々タル伝統ヲ有スル国軍」に示されるような意味あいで「伝統」の概念が重視されるようになったのは、自民族中心主義に由来し、近代国家としての体裁を整えるという要請にも関わっていたとする。

3-5-1 意図を持って作られる「伝統」

伝統は1870〜1914年の時期の欧州で大量生産されている(『作られた伝統 エリック ホブズボウム』)。その原因として、当時の急激な産業社会化が、為政者に国民同士の連帯感やアイデンティティの確保について不安を感じさせたことが挙げられる。

この時期は国民国家としての日本が確立した時期でもある。この時期に、主として近代天皇制にまつわる様々な伝統が創り出された。実は律令以来の宮中行事は重ければ重いほど中国風であった。戦前の十三にのぼる皇室祭祀はほぼ明治期に定められ、古代からのものは新嘗祭だけである。神嘗祭は伊勢神宮で行われていたものを宮中でも行うようになった。逆に皇室は様々な仏教的慣習から、自ら無理やり切り離さざるを得なかった(『維新史再考 三谷博』)。

外国人から見ると、式年遷宮があるため伊勢神宮の社はいつ見ても新しい。更に建築様式は唯一神明造りという簡素なものである。この様式は伊勢神宮だけに許される貴重なものであるが、そうしたことを知らない外国人観光者には、物足りなく映ってしまう。東京や京都には、古くて大規模な神社が数多く存在し、写真的な面白さにおいては、伊勢神宮は伏見稲荷に劣後してしまう。

日本の伝統文化の集積地としての古都・京都というイメージは、近代日本の天皇制と関わって創り上げられた。

1895年平安遷都千百年祭にちなんで第四回内国博覧会が開催された。平安神宮が創建され、時代祭もこの時から始まった。初詣、神前結婚も普及していった。修学旅行の目的地としての古都も同様であった。

小京都論

小京都論は、新幹線、高速道路の開通による東京の観光客の京都への旅行を促進する雑誌の発想から生まれた。東京一極集中とともに京都のローカル化が加速し、小京都から金沢が脱離した。井上章一によれば、京都は信長、秀吉、家康による破壊の上に作られた城下町の面影が強い都市である。従って城下町の集まりである金沢、津和野等が小京都群を形成できたのである。金沢が武家文化の町として小京都から脱退した理屈付けは二重の意味で誤りであったが、地域の存在感は発揮できた。

元号

元号は「日本文化の伝統」とされるが、一世一元制は「明治に始まる伝統」である。元号は「時」を支配する天皇が制定権者であるというのが伝統のはずであるが、元号法は政令で定めるとして決定権は内閣にあるとした。出典も伝統である漢籍から万葉集に変えてしまったが、それでも令和と銘うつ観光資源は誕生するであろう。

伝統と断絶した文化資源

マンガやアニメは、日本のメインカルチャーである伝統文化と断絶した、戦後に形成された無国籍的な文化である。少なくとも政策や主流派とは断絶していた。日本特有の無宗教的価値観を少し継承するものの、伝統と断絶していたから、他の文化から受け入れられ、国際化した

サブカルチャーとは、メインカルチャーと対比される概念である。1970年代前半までは反体制的なカウンターカルチャーが主流であった。それ以降次第に保守化・商業主義化し、サブカルチャーに変質していった。社会学で使用されていたサブカルチャー概念が日本に輸入されたのは1980年代になってからである。研究者ではない当時の若者にとっては学術的な正確さよりも、サブカルチャーという言葉の持つ「自分たちはその他大勢とは違う」というニュアンスが重要であった。ゆえに観光資源化できたのである。1970年代に注目された音楽文化のレゲエは、ジャマイカ音楽であるが、欧米の白人文化に対する対抗文化として評価された。しかし、日本では目新しい音楽ジャンルの一つとして受容されていった。

ビジネスから生まれる伝統

歴史が浅いから観光資源の価値が下がるわけではない。重要なのは、伝統と呼ばれる習慣の背後にはビジネスや権威付けをもくろむ人間が存在するという視点を持つことが必要である。

日本の鉄道開業の年に行われた「太陽暦」への切り替えは、農漁村の生活に密着していた年中行事に混乱をもたらした。と同時に、鉄道が、やや遠方の寺社への参詣手段として活用されるようになって、都市で生活する人々に、半ばレジャーとしての初詣という新しい風習を定着させることになった。1872年に東海道線が開通し、川崎大師へのアクセスが容易になった。そこで、古来の行事を組み合わせ、縁日も恵方も関係ない「初詣」をつくりあげたのである。

重箱のおせち」は、幕末から明治にかけて正月のおせちを重箱に詰めるようになったものを、戦後、デパートの販売戦略によって定着した。「讃岐うどん」という言葉自体は1960年代の誕生で、「越前竹人形」は水上勉が1963年に発表した小説『越前竹人形』が初出である。例を挙げればきりがないくらい多い。

民謡はNHKとレコードの普及による産物であるから当然新しい。ラジオが普及するまで、歌い手が移動しない限り個性ある歌は伝わらなかったからである。

神輿は電線が普及させた。それまで祭礼は山車が中心であった。電線の普及で山車が障害になり、神輿が主流となった。今日街づくりに活用される多くの材料は近代の所産である。

文化を形成する「伝統」は変化するどころか、後から作られた例が山積する。「美術」概念が明治の初めに西洋から輸入されたものであり、1872年の官製訳語である。「日本美術史」も「美術」という言葉により構築された近代の諸制度によって初めて可能になった。字句「日本画」は明治になって造語され、概念となっている。チャイナドレスも江戸しぐさも伝統ではなく、近年新たに作られた。それでも人を動かす力を持つ観光資源としては価値がある。

交通安全のお守りがモータリゼーションの産物であるとすると、ロボット供養はIT化の産物であろう。ロボットのアイボ供養は、針供養、人形供養をする伝統があるからだとの説明があり、ネットには人形供養四百年の歴史があるという長福壽寺が出ている。既に江戸時代に原型はあったようだが、現在の形の供養が始まったのは昭和や平成になってからである。

祭りと伝統と日本の食文化

農業と祭礼は密接な関係にあったが、農業が変質した。そのため伝統的な祭礼が観光祭礼に変質し、人集めが重要になった。

関係者間で金銭騒動になった阿波踊りは、徳島県内の各地で行われてきた盂蘭盆の踊りの通称であり、昭和初期に作られたものである。よさこい節とソーラン節が一緒になったよさこいソーランは量的拡大には成功したが、中身のないカーニバルとも批判されている。

日本人の主食とされる米は、小麦に較べてタンパク質と必須アミノ酸が豊富なため、大豆と食塩をあわせて摂取する程度で、生存に必要な栄養をおおむね摂取することが出来る。単位面積当たりの人口扶養力に非常に優れた作物であるため、狭い土地でも多くの人口を支えることが出来た。和食(Ⓗ)は、この米を中心とした食事として、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。しかし実は明治から昭和の初期まではかなりの農家は米ではなく雑穀を食べていた。逆に都市住民は雑穀の流通市場がなく、貧しくても米を食べざるを得ず、工業は「米食奨励の伝道協会」といわれていた(『いま蘇る柳田國男の農政改革 山下一仁』)。

1960年以降米価を大幅に上げて国産の米の需要を減少させ、麦価を据え置いて輸入麦主体の麦の需要を拡大させた。こうした外国品愛用政策を採れば、自給率は低下する。今では米を五百万トン減産する一方、麦を八百万トン輸入している暮らし方(文化)でもある。

 

 

観光資源(開志)

◎観光資源の分類と評価

観光学では、観光資源を細分化して範疇化(カテゴリー化)を行う。この分類論は記録・記憶を前提とした講学上の必要性はもとより、商品の差異に着目する資本主義社会において、需要者、供給者双方にコミュニケーションを取る上で、更には観光資源の評価を行う上で、必須なのである。

人間は違うものを同じと見てしまう。二つのものを取り出したとき、類似点も相違点も同じだけあるにもかかわらず、無意識のうちに、違う物を同じものと見なしている。類似点の方をより注目するのである。これは類似点によって、モノやコトの値打ちをはかっているからである。このことを論理的に証明したものが「みにくいアヒルの子の定理(Theorem of the ugly duckling)」である。

例えば「くまもん」と「土佐犬」は違うか同じかを考えてみる。同じ点として「観光資源である」「秋田犬ではない」がとりあえず挙げられる。違う点としても、姿形や生物か否かという点が挙げられる。このように、類似点も相違点もいくらでもあるということが示せるから、類似点の数の多さでモノゴトを分類することはできないということが分かる。「みにくいアヒルの子の定理」は、このように述語の重要性を決定するのは人間の価値体系であることを数学理論で示したのである。この定理は各特徴を全て同等に扱っていることにより成立する定理であり、すなわち,クラスというものを特徴量で記述するときには,何らかの形で特徴量に重要性を考えていることになる。従って、特徴に重要性を負荷することがパターン選択の本質であり、人間は価値判断によって、認識工学では特徴の重み付けによって、行ってきたのである。観光資源に関して行われるアンケート調査も、この思想により行われてきた。

公的評価制度

公的評価制度はある種の政策目的実現のため、公的機関が評価を行い、その評価責任を取るものである。公的機関が行うものであるから、行政情報公開法、行政手続法、個人情報保護法の仕組みで行われるものとなる。絶対的客観的評価が不可能であっても、一定の政策目的を実現するため公的評価が必要となることがあるが、そのためには、公的評価を実行する権力基盤とそれを受け入れる社会基盤が不可欠である。特に青少年の教育評価は後者の基盤が必要である典型的な事例である。インターネットの普及による法制度の流動化は、この公的評価制度も流動的にする可能性をもたらしている。

生産者のための公的評価制度

輸出検査法(1957年)によれば「輸出品の声価の維持及び向上」のため、指定貨物について、品質の検査基準を定めなければならないこととされていた。その品目並びにその品質を識別するための等級及びその基準を定めることが出来るとされていたが、同法は1997年に廃止された。酒税法においても税率を定める紋別制度が廃止され、食糧管理法に基づき買上価格を定める米の等級制度も1995年に廃止された。このように供給者の利便のための公的評価制度は廃止される傾向にある。

消費者保護のための公的評価制度

消費者保護のための格付制度は拡充傾向にある。1970年農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律は1950年制定された農林物資規格法を全面改正して制定された。観光資源も評価そのものは行わないものの、情報提供、評価方法の公示等に関する制度の整備は、消費者保護の観点から行われるべきものとする意見がある。

格付け、番付

3-2-1 観光における差異

格付は市場の効率性を損なう「情報の非対称性」を補う手段であり「シグナリング」(情報を持っている側が工夫して情報を持っていない側に伝達すること)の一種と分類される。資本主義も差異を前提としており、観光情報は資本主義商品の一つでもある。

観光における差異を観光以外のものにおける差異と区別する実質上の意味あいは話題・人気である。しかし単なる話題・人気だけではマスコミとの違いがなく、ヒトを移動させるだけの話題・人気ということになる。格付けの経済的な意味・意義は、ユーザーにとっては情報コストの節約、格付けされる側にとっては信頼を得るための安価な手段ということが挙げられる。

格付けは、単に第三者からの評価という側面だけでなく、品質の基準化という側面もある。格付けの意義が有効であるためには格付けの主体及びプロセスが「信用」を持っていることが大切で、この信用は、格付け主体の専門的能力、格付けに賭けられている価値、格付けプロセス(基準、評価者等)の適切性によって影響を受ける。格付けプロセスの適切性は透明性の確保と情報公開により確保される。評価時点と利用者が利用する時点のタイムラグにつき、これまでは再検査期間が比較的長くても許されてきたが、消費者意識の向上、情報通信技術の進展はそれを許さなくしている。温泉虚偽表示を契機として温泉法施行規則が改正されたのもこのことによる。食品表示の虚偽等を排除する施策が求められる時代であり、運営技術的な理由から味の審査を省略するみやげ物(食品)コンテストも問題視されるであろう。

拡大詳細化の道をたどる文化財保護法

教科書図

 

 

 

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