中国における配車アプリの動向
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最終更新日:2016/11/25
配車アプリ
今後の外国人旅行者の増大を考慮すると、中国における配車アプリの動向は日本も無視できない影響力をもつものと予想され、日本の配車アプリを考えるにも参考になろう。なお、下記のまとめはGoogleによる検索で入手できるものを整理したものである。
〇 2015年までは「滴滴打車」と「快的打車」の2つのアプリがライバル関係にあり、数百億円から1000億円規模になるキャッシュバックキャンペーン等を行うなど消耗戦を続けていた。この2社が大きなシェアを獲得することになった理由としては次のような背景がある。
「滴滴打車」の大株主にはインターネットやスマホでQQや「微信」(WeChat)のサービスを運営している騰訊(Tencent)がいて、「快的打車」は中国最大のネットショッピングモールタオバオ(陶宝網)や天猫(T-Mall)を運営するアリババ(阿里巴巴)が出資している。騰訊(Tencent)は、「微信」(WeChat)の電子財布機能(微信ウォレット)を持っている。アリババも「アリペイ(支付宝)」という電子財布機能を持っている。この両者がタクシー料金の支払いにそれぞれの電子財布機能を使えるようにした。この利便性は2社の大きなアドバンテージとなって、競合他社と水を開けることに成功した。
次の段階は両者のシェアの奪い合いの競争である。タクシー配車アプリは乗客のユーザーを増やすことも重要だが、乗車の引き受け手となるタクシーの運転手側でもアプリをインストールして使ってもらわなければならない。30代以上の肉体労働者であるタクシーの運転手に最先端のIT技術を取り入れてもらうのは大変なのである。そこで考えたのが、タクシーの運転手に大きなインセンティブを出すこと。例えば「滴滴打車」のアプリを使って載せた乗客が微信ウォレットで運賃を清算すると、「滴滴打車」から運転手の口座に15元のインセンティブが支払われるということにした。このインセンティブは実は初乗り料金よりも多い。また、運転手ほど多くはないが、乗客の方も同様のインセンティブを払って両方面から利用者を爆発的に増やしていったのである。
この結果、中国で9割のシェアを誇る「KuaiDi Taxi」と「Didi Taxi」は2015年の乗車回数が14億回となり、「世界最大の未上場会社であるUberの全世界の乗車回数を抜き、Uber以上に伸びている」とアピールした。
〇 配車アプリの普及が進んだ背景には、既存のタクシーへの不満があるとされる。中国のタクシーは客待ち、流しが中心だ。経済発展で需要は増えているのに、台数規制でタクシーが増えず、なかなかつかまらない状況が常態化していた。トラブルが起きた鄭州市では約20年間、約1万台のままでだった。行き先によって乗車拒否に遭ったり、距離をかせぐために遠回りされたりすることは日常茶飯事であった。空港や駅に並ぶタクシーがメーターを使わずに通常より高い料金を提示することも珍しくなかった。車が古くて汚い、運転手のマナーが悪いという声も多く聞こえてくる。
これに対して、配車アプリは運転手と客の双方が納得して契約が成立するため、タクシーのように目の前で乗車拒否に遭うことはない。料金もアプリ上で事前に提示され、不当に高額な請求をされることがない。タクシーより安い大衆車から高級車まで客が自分で選べるため、少し高くても快適に移動したい富裕層に受けた。
〇 中国には以前から、日本の白タクに当たる無許可のタクシー「黒車」が存在し、空港や駅での違法な客引きが横行していた。自家用車を使った配車アプリのハイヤー営業について「黒車と同じだ」という批判がくすぶるが、明確に違法とする法規制はないとされる。
中国メディアによると、北京、上海、広州市などの交通部門は「配車アプリを使った自家用車によるハイヤー営業は黒車と同じ」との認識を示し、一部で取り締まりを実施した。ただ、市民の歓迎ぶりのため強く出られず、混乱に拍車をかける形になっている。アプリの全面禁止にまでは踏み込まない一方、ハイヤー側から反発を受け、取り締まり中だった当局の担当者が取り囲まれるといった事態が起きている。
4月には広州市で、5月には四川省成都市で、ウーバーの事務所が地元当局の調査を受けたものの、その後も営業は続いている。
アプリ会社側は、「運転手には一定の研修や保険契約を義務づけており、自家用車ではなく営業車とみるべきだ」などと反論。ただ、事故時の補償額がタクシーより低いなどの問題点も指摘されている。ウーバー上海地区の担当者は中国メディアの取材に、「価格は明朗で、車も高級。『黒車』ではない」と答えた。
なお、「人民網日本語版」2015年12月23日によれば、「中国政府、配車アプリの法整備へ 」と下記のように報道されている。
楊伝堂交通運輸相は米ウーバーテクノロジーズや中国の滴滴快的など配車アプリについて、「法整備で合法化し、人々の交通需要を満たす、より多様で質の高いサービスを提供できるようにする」と語った。同氏は中国で年に一度開かれる全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の際に記者団に語った。タクシー配車アプリの新たな法令を制定する話が出たのは昨年の全人代でのことだ。法案には運転手や運転許認可の規制、運用状況を監視する仕組みを整えることなどが盛り込まれている。同省は業界の改革を「推し進める」としながらも、詳細はほとんど明らかにしなかった。中国の滴滴、快的と米国を拠点とするウーバーは中国で広く利用されており、これらは李克強首相による技術革新で経済成長を促進する新たな「インターネットプラス戦略」の一部を成す。だが、当局は中国の従来型のタクシー運転手が、タクシー配車アプリに収入を奪われたとして過去数年間で何度も反対デモを行ったパリやベルリン、ロンドン、マドリードの同業者の足跡をたどることを懸念している。
楊氏はタクシー配車アプリの出現は「不当な競争」や「利益相反」を引き起こしたとした上で、この業界の改革という挑戦は「前例がない」と述べた。実際に中国のタクシー配車アプリのいくつかは無認可の運転手や車両を使用している。また、投資家の資金で利用者に割安の料金でサービスを提供するところもある。(北京=盧建欣)
〇 アリババ陣営「快的打車」には、日本のソフトバンクが出資、テンセント陣営「滴滴打車」には、シンガポールの国家ファンドが出資を行っている。さらに、中国3大IT企業のもう1つ、検索最大手バイドゥは、米国のUberに出資を行い、中国での展開を助けている。こんな複雑な状況から、一転して両社合併という結論に至った。
その結果、2016 年 4 月 7 日のウォールストリートジャーナルでは、「米配車アプリ大手ウーバー・テクノロジーズと競合する中国の滴滴快的の企業価値は250億ドル(約2兆7000億円)余りと評価された。事情に詳しい複数の関係者によると、滴滴快的は15億ドル余りの資金調達が完了に近づいているが、この取引では同社全体の評価額が250億ドルを超えた」と報道されている。
〇 いくら99.8%のタクシー配車アプリシェアがあるといっても、中国全土のタクシー全てをカバーできているわけではない。中国国内のタクシー・ハイヤー・リース市場の需要は大きいにも関わらず、まだまだ存在感としては小さく、更に伸びゆく可能性があるタクシー配車アプリ市場である。(現に今の市場規模は1億7200万元・32億7300万円程度に過ぎない)た専車(中高所得者向けのビジネス専用車事業)市場においても、まだまだ未成熟な市場でありながら、どんどんと対抗するライバル企業が出てきている。
〇 北京交通大学とスマートフォンを使ったタクシーの配車サービスを手掛ける「滴滴出行(2015年2月に滴滴打車と快的打車の大手配車サービスが合併)」がこのほど開催した戦略提携会議で、「中国ハイヤー移動ネットユーザー調査報告書」を発表。20-45歳のネットユーザーの8割以上がタクシー配車アプリを利用したことがあることが分かった。人民日報が報じた(人民網日本語版 2015年12月23日)
調査では、タクシー配車アプリを使う理由について、回答者の57.8%が「タクシーをつかまえやすい」、31.7%が「割引がある」と答えた。ハイヤーの料金については、半数近くが「合理的で、料金分の価値あり」、24.4%が「安いし、割引も多彩」と答えた一方で、16.9%が「料金が不透明で、だまされていないか心配」と答えた。ハイヤーの安全性については、39.8%が「タクシーと同じく安全」、36.8%が「ネットを利用した監視カメラが付いているのでとても安全」と答えた一方で、23.5%が「タクシーのほうが厳しい監視・管理があるので安全」と答えた。
〇UBER(優歩)
2015年からUBER(優歩)が本格的に中国本土でサービスを展開してからは、中国人ユーザーのあいだで「UBERのほうが使いやすい」との評価。UBERが滴滴出行とくらべて人気の高いワケは、近くの車がすぐ見つかり、料金が安い、という配車サービスで重要なポイントをおさえているから。そもそも、UBERはどのようなサービスを行っているのか?基本的にタクシーではない専用車(ハイヤー)の配車サービスをおこなっている。滴滴出行は専用車(ハイヤー)の配車サービス以外に、タクシーの配車サービスもおこなっている。
中国に参入した当初は、営業許可のない白タクの配車サービスといわれ中国の政府機関から問題にされた。そこから、UBERに登録している専用車(ハイヤー)に損害保険をかけたりして、登録している専用車の配車サービスが法律的に問題にならないビジネスモデルに転換をはかった。現在では、中国の有力企業である百度(バイドゥ)、海南航空などと事業提携も行っている。
UBERはタクシーよりも大幅に安い。人民優歩(People’s Uber)とよばれる普通車の専用車(ハイヤー)の場合、最低利用料金はたった9元(約200円)。広州市(広東省)のケースをみると、1kmあたり1.6元(約30円)、1分あたり0.35元(約7円)、初乗り料金は不要だ。基本的にタクシー(初乗り料金:およそ7元~14元)よりも大幅に安くなる料金体系を導入している。さらに、UBERは、ほかの易到用車、神州専車、滴滴専車などの同業他社の利用料金とくらべても、大幅に安い。中国のネット記事をみると、ほかの配車サービスにくらべてUBERは半額程度の料金におさまる。
UBERの利用を開始するためには、百度地図またはUBERの専用アプリと銀行カード(キャッシュカード)の連結(リンク)が必要になる。なぜなら、UBERを利用したとき、運転手と乗客は直接は現金の受け渡しを行わないからだ。そのため、UBERを利用するためには、外国人であっても少しは中国語を話せないとスムーズに運転手を見つけることができないだろう。乗車すると、予想走行ルートと所要時間がアプリ上に表示される。下車すると利用料金と利用経路が表示される!UBERの運転手は一定期間の送迎回数により特別ボーナスが支払われるため、短距離の利用でもまったく嫌な顔をしない。運転手にもよるものの、普通のタクシーよりも顧客対応の良い点も中国人の評価が高い理由。
〇 NHKの報道
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160314/k10010443051000.html
中国でインターネットを通じたタクシーなどの配車サービスが急速に普及するなか、 一般のドライバーの車を予約して客が乗る、いわゆる「白タク」の利用も拡大していることについて、中国の運輸当局は、経済の発展につながるとしてこうした白タクの配車を容認する方針を示しました。 中国では、スマートフォンの配車アプリが普及し、営業許可を持つタクシーだけでなく、許可を持たない 一般のドライバーの車を予約して客が乗る、いわゆる「白タク」の利用も広がっています。 白タクは、中国の法律で原則禁止されていますが、事業者側は「インターネットを通じた配車はドライバーと 乗客の利用記録が残るためむしろ、犯罪は起きにくく安全性も問題はない」と主張してきました。 これについて、中国の楊伝堂交通運輸相は14日の記者会見で、「法制度を整備して合法化する。 国民の望む方向に政策を進める」と述べ、インターネットを通じた白タクの配車を容認する方針を示しました。
その理由について楊交通運輸相は「インターネットビジネスの発展にかなうもので、都市の渋滞を緩和し、環境汚染を減らすのに役立つ」と説明し、経済の発展につながると強調しました。そのうえで、安全面に考慮し、ドライバーの運転経験や車種などに一定の条件を設ける新たな法令を速やかに制定する考えを示しました。
〇 Lyft
米国で携帯端末アプリを使った配車サービスを展開しているリフトが、中国の同業最大手ディディ・クアイディと提携し、中国市場へ参入する。リフトの利用者が米国と同じアプリを使って中国でディディから配車サービスを受けられるようにする。中国でのサービスは2016年から開始される。
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